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「ウチは四人家族で子供二人、旦那は単身赴任中で。……今年で三年目だったかしら」
そう坦々と話す槙さんは目を伏せてカップに赤い唇を寄せる。
優雅に紅茶を飲む貴女が、ちっとも子持ちに見えません。
……そもそも、結婚指輪もしてないし。
「槙さん、指輪してないですよね」
同じことを考えていたらしい上杉さんの問いに槙さんは苦笑して、
「もらったけど、アレあんまり好きじゃないの」
そうなんですかと相槌を入れたあとに聞いた次の言葉は、
「洗い物とデートの邪魔だし」
上杉さんが一瞬固まったのが、同じく固まった私にも伝わってくる。
「――デート?」
「一人で飲みに行ったらねー、時々店で話しかけてくる人がいるのよ。そんな人たちに気を遣わせちゃうのも面倒だし」
本当は「時々」じゃなくて「毎回」じゃなかろうか。
「……話しかけられて、その後は、あるんですか」
槙さんはふっと笑った。
「時と相手によるわね」
槙さん、やっぱり、カッコいい……!
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