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気を紛らすつもりでハミングしながらシャワーを浴びていたら、浴室がほんの少し涼しくなった。
ドアが開いたと気づいてぎょっとして振り向く――そこには無表情の長塚さんがいる。
やっぱり、服は着ていない。
「……びっくりしました……」
前髪をかき上げ、彼から目を逸らす。
おまけに一つ息を吐いた。
この場合はいつも目のやり場に困り、自分の身の置き場に困る。
堂々と裸をさらすには、意外なくらい根深い恥じらいが残っているのだ。
洗面所の明かりを点けたまま浴室の照明を消してやって来た彼は私に身を寄せて、一緒にシャワーを浴び始めた。
……あの、ちゃんと、浴びられます?
そう聞くまでもなくちょっと横に退いたら、引き戻された。
湯を浴びながら掌で手早く頭や体を洗っている様子だ。時折彼の体が肌に触れる。
背中で気配を感じてやけにそわそわしている私に、穏やかな声が訊いた。
「今夜は、やけにつれないな」
「気のせいですよ」
ああ、ぎこちない。
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