いつかの夏祭り

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「ねっ、あれ食べたいよ。紘一、買って、買って!」 初めて来たお祭りは、苓にとって余りに刺激的だったみたいで、 「ちょっ、苓、走るな。こらっ、離れると迷子になるぞ」 浮かれてあっちこっちフラフラして、姿を見失いそうになるから気が気じゃない。 今まで苓はお祭りには来た事がないと言ってた。過保護な両親が誘拐を恐れて、こんな人混みには決して出掛けさせなかったらしい。 だからか、見るもの全てが新鮮らしく、直ぐに俺の側からはなれて、いろんな所に吸い寄せられていくから心配で仕方ない。 苓の頭を見失わないように後を追い、リンゴ飴をキラキラの瞳で見ている苓に追いついた。 「この、小さい奴でいいからっ、ねっ?」 期待を込めた瞳で見上げてきて、あー、もう、可愛い! 可愛いすぎる! 恋人の欲目じゃなく、苓は可愛いすぎる! 今もほら、周囲の飢えた野郎どもがニコニコ笑顔満面の苓をチラチラみている。 あぁ、苓が減る!  やっぱりお祭りなんて連れてくるんじゃなかった。 .
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