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「紘一、そ、れ、なぁに?」
ツンツンと段ボール箱を指差しながら、分かりきった事をワザと嫌みたらしく聞く。
紘一は余程嬉しいのか満面の笑みで、
「何ってチョコに決まってるだろ? まだまだあるぞ。とりあえず持てるだけ持って帰ったんだ。今日から嫌と言うほどチョコが食べれたんだ。しかも‥‥‥」
僕が不機嫌な事なんて気付きもしないで、近くのベンチに座ると、いそいそと段ボール箱を開けた。
「美味しいチョコが好きだから、手作りなんて食べたくないんだよなぁって暫く前から言ってたおかげで、見てみろよ! 高級店のチョコばっかりなんだぜ」
こいつはチョコをくれた女の子の気持ちを何だと思っているんだ! 失礼にも程があるぞ!
しかも‥‥‥手作りがダメなんて‥‥‥知らなかった。
「すごいだろ?」
「‥‥よかったね」
泣きそうな顔を見られたくなくて、そう言うと足早に歩き出した。
「あっ、苓、待って!」
喜ぶ紘一を想像しながら作ったチョコ、渡せなくなっちゃった。
頑張って作ったのになぁ。
どこに行くかなんて決めてなかったけど、とにかく人混みに紛れるように歩く。
「苓、待てよ」
紘一は段ボール箱を抱えたまま追いかけてきたけど、両手が塞がっているから僕を捕まえられないでいる。
勝手にいじけてるだけだって知ってる。
拗ねてるだけって分かってる。
でも‥‥喜んでくれるって思い込んでたんだもん。
じわっと溢れてくる涙を止める事が出来なくて、僕は逃げるように走り出した。
「あっ、こらっ! 苓どこに行く?」
焦ったような紘一の声がしたけど、とにかく涙を見られたくなくて、更にスピードを上げて走り出した。
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