紫季荘の鈴村さん

能ある鷹というより豚も煽てりゃ何とやらだ

「何故だ！この夏輝お姉様が手伝うと言っているというのに！」

「(だからそれが余計だってのに)……いいかよく聞け。お前は――。」

冬夜は考えた。
本当のことを言った所でこの姉は信じないし、むしろ面倒臭いことになりかねない。
だが彼女は意外と単純だ……なら、どうするべきか。答えは既に出ていた。

「知ってるか夏輝、日本には『能ある鷹は爪を隠す』という諺がある。」

「む？なんか強そうだな……。」

「そう、強い。だから鷹は普段爪を隠して暮らしてるんだ。」

「そうなのか……だが、今の話と関係あるのか？」

「これをお前に当て嵌めてみろ。僕が今作ってるのは、何の変哲もない夕飯だ。普段通りの、ね。」

と、此処まで来て漸くピンときたらしい。
夏輝が「つ、つまり――。」と口を開きかけた瞬間を見計らい、冬夜はとどめの一言を言い放った。

「夏輝が爪を見せるのに相応しい場ではない！」

その一言に、衝撃の雷が落ちたといわんばかりの顔をし、彼女はよろよろと後ろに後ずさる。
そしてぶつぶつと何か言いながら居間へ戻っていった。
暫くすると「私は鷹なのだぁぁぁぁっ！」という奇声が聞こえてきたので、どうやら上手く誤魔化せたらしい。
こうして今日も、鈴村家の食卓の平和は守られた。

後に帰ってきた、唯一事情を知らない春彦だけが、妹の奇声に首を傾げたのだった。