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蒼天の元、一人の青年が瓦礫の上に立っていた。青年の顔立ちは不明である。
何故なら、青年の口元は薄汚い布に覆われ、目元はゴーグルにすっぽりと覆われ、覗いている肌色といえば鼻先の僅かな部分だけだったからだ。
その彼が、つい3年前まで世界に名を馳せていた大企業の成れの果てを慎重に踏み進める。ここ以外に道が無いのだ。
瓦礫の下は余りにも死角が多過ぎる。それに加えて隠れる場所も多い。そんな場所をのこのこ歩いていようものなら、明日の朝日はおろか今日の夕暮を眺めることも叶わない。
彼はその事を十二分に承知していた。だからこそ多少足場が不安定であっても瓦礫の峰を進んでいるのだ。
もっとも、青年にとってはそれ以上の意味があったのだが。
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