知らせと黒づくめ

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ざわざわと市場が騒がしい。 多分市場だけでなく国全体が騒がしいのではないか。 市場で買い物をすること数十分。 大きな通りから少し外れたところにある店の前で足を止める。 扉を開けるとスパイスや砂糖の甘い香りが脳を刺激した。 いらっしゃい、といつもと変わらない笑顔で迎えてくれたのはこの店の店主の蘭(ラン)おばさんだ。 『タイムとローズマリー、あとはシナモンだな』 『あいよ!』 相変わらず、ここはラーメン屋か、と突っ込みたくなるような返事だ。 それぞれの瓶を袋に詰めながらおばさんが話し始めた。 『そういや刹坊、近いうちに姫様が帰ってくるらしいねぇ。いったい何年ぶりかねぇ』 『その話なら市場でも話題になってた。見たことねーからあんまピンとはこないけど…』 『ああ、そうかい。見たことがないのはお前だけじゃないさ。姫様は公の場に一度も出たことがないからねぇ』 そう言うと袋を差し出されたので、中身を確認する。 スパイスの他にクッキーと飴が入っている。 もう一度おばさんを見るとオマケだよ!とニカッと最高の笑顔を返された。 『いっつもありがと』 お礼を言って店を出ると暖かな空気に包まれる。 (姫様かー。謎、だよな。まー、俺には関係ないけど) 姫が戻ってきたところで1国民である自分には関係ない。 そんな考えがあと3日ももたないことを今の風夜 刹汰(フウヤ セッタ)は知るよしもなかった。
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