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『ただいま』
店に戻るなり中からはけたたましい物音が鳴り響く。
『うあっ!刹汰!』
扉を開けたら店番を頼んでいた凛弥が叫んだ。
改めて状況を解析するとこうだ。
荒らされたテーブルやカウンター
凛弥の胸ぐらを掴んでいるガラの悪い奴ら
この状況に直面しちまった俺
ああ…
『さいっあくじゃねーかぁー!!』
(あー、家帰りたいっ…。俺んちここだけど)
『お友達かぁ?あ?』
凛弥に向けられていた弾丸のように鋭い視線が、今度は俺に向けられる。
『お友達でもなんでもいいが、とりあえず出てってくんねぇ?既に客がいんだからよ』
俺の店で暴れんじゃねーよ、と睨んでもあまり効果はないようだ。
ちらりと店内の隅に置かれたテーブルを見ると、開店前にも関わらず1人の男が座っていた。
客のためにも速く奴らを追い出さなくてはならない。
その時、視界に何か黒いものが飛び込んだ。
何だあれ、と思ったころにはガラの悪い集団は1人として立っている物はいなかった。
『腹減ってんのに、うるさい奴ら』
黒い物の正体はさっきまで隅のテーブルにいた男だ。
全身黒づくめ、それプラス髪まで黒。
その中でふたつのルビーのような瞳だけがギラギラと輝いている。
『なぁ、』
床に転がる男達を外に放り投げているとピョコピョコと黒づくめが近づいてくる。
『悪かったな、せっかく食いに来てくれたのによ』
『別にいいよ。それより』
腹減った、と黒づくめは呟いた。
(いつまでも黒づくめじゃな…)
『お前、名前は?』
俺の問いに黒づくめは目をパチパチしている。
すぐに答えが返ってくることはなく、あーとかうーとか意味のない呻きがこだまする。
『クロハ、だよ。クロハ』
『名前まで黒かよ』
『ほっとけ!』
お前は?と促される。
『風夜刹汰だ!あっちは』
『世鴫凛弥(ヨシギ リンヤ)だよ』
よろしくーと一通り自己紹介が済んだところで凛弥が料理を盛りつけた。
ソースの芳醇な香りが店内に広がった。
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