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「なにやってんの、こんなとこで」
今日は体がだるかった。
何事にもやる気を感じなかったので陽は丸一日屋上でさぼることにしたのだが。
「今授業中なんだけど?」
そこに現れたのがこいつだった。
…誰?
「俺がどこでなにしようが俺の勝手だと思いまーす」
「僕だってこんなこと言いたかないけど一応君の部活の先輩としていわなきゃいけないんだよね」
先輩だったんだ。
そういえばどこかで見たことある気がする。
目の前の上級生の言葉を受け流しながら陽は寝ぼけた頭でぼんやりと考えた。
「…ふぁぁ」
眠くて欠伸がこぼれた。
「…なめてんの?君」
相変わらず相手は無表情だ。
「まず俺あんたのこと知らないし」
「…。まぁそんな気はしてたよ、でも僕は君のこと知ってるよ、陽くん」
名前で呼ばれ、俯いていた顔をあげた。
「僕一応、君のと同じバンドなんだけど」
呆れたような声音で相手はため息をついた。
その言葉でようやく、自分が軽音部に入ったことを思い出した。確か最初の顔合わせのときにしか参加していなかったはずだ。
…そんな興味のないようなこと、いちいち覚えてないし。
「…はぁ、そうですか」
陽は完全に興味をなくし、屋上の床にごろんと寝転んだ。
「…話聞く気なし、と。あぁぁめんどくさい」
吐き捨てるように呟くとそのまま端に立っている柵に近づき、ポケットから煙草を取り出して火をつけた。
ふーっと吐き出された白い煙が風に流れていく。
「学校は禁煙なんですけど?」
「僕がどこでなにしようと僕の勝手なんだけど?」
さっきの陽の言葉を模倣するように、先輩がいう。
…よくわかんない人。
とりあえず決して真面目な教師ではなさそうだ。生徒の前で煙草吸うなんて。
ふ、と陽は笑った。
「あんた面白いね」
「はあ?」
陽がそう声をかけるとかすかに眉間にシワをよせて振り返った。
堅いコンクリートから起き上がり彼の近くまで歩く。隣まで行くと、さっき煙草がはいっていたポケットとは逆の方から携帯灰皿を取り出し煙草の火を消した。
「優しいね」
その様子を見ながらにっこりと笑う。
「なにが」
相変わらず無表情は崩さない。
諦めたのか、先輩が振り返って屋上を出て行こうとしたとき、陽は相手の緩く結ばれたネクタイを引っ張り体を引き寄せた。
一瞬、顔が間近に迫る。
「これからよろしく」
陽はそういってニッコリ微笑んだ。
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