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「ちょ、お客さん……っ!?」
何事かと、騒ぎを聞き付けた初老近い男が、慌てて様子を見にやってきた。
「喧嘩されちゃ困るっ……!?」
恐らく、すぐ横の八百屋の亭主。派手に壊れる音を聞き付け、堪らず店から出て来たようだ。
さすがにあれだけ派手な音を聞かされては放っておけず、路地に踏み入るのだが――ぎょっとした様子で言葉を詰まらせ、亭主は即座に固まった……。
『困るよ~。こんな所で暴れられちゃ~……』
――そう、続けたかった亭主。だが、本能で危険を察知し、口を閉ざしていた。
「――あ゙あっ?」
(……!)
そこに居たのは、かなり……目つきの悪い男。
狂暴そうな男と目が合い、立ちすくむ。……仲裁どころではない。
これは、八百屋の手には負えなさそうである――。
「……悪りぃ悪りぃ! こいつらが弁償するから安心しろ♪」
ニカッ!
八百屋を見て、すぐに店の者だとわかったのか……一変して、いい笑顔を浮かべる男――人懐っこそうな笑顔を、八百屋に向けている。
固まりつつ、上から下へ……びくつきながらも目を動かし、男を観察する八百屋。軽く男の身なりに目をやるが、すぐに視線を男の顔へと戻す。
男は変わった身なりをしており、この国では見慣れないローブのような服に、頭には白い布を巻いている。
服も頭の布もボロボロなのだが、布からこぼれ落ちた髪は美しく、男は少し黒い肌に、目付きを除けばかなり整った、綺麗な顔をしていた――。
そこは、八百屋と肉屋の店の間の、人がぶつからずにすれ違える程度の狭い路地。
駆け付けた八百屋の目に飛び込んできた光景は、古い貼紙前の崩壊したゴミ置き場の上で、のされて気絶している、若い2人の男。
そして、この目つきの悪い――今、目の前にいる、金の瞳に黒髪の男が……無傷で立って居た。
残念な事に、八百屋の店の木の壁には――見事な穴が、空いていた。
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