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「准」
「ん?」
「オレ暫く来れない」
「あー、忙しなるゆうてたな」
「うん」
「描き上げたかったんじゃない?」
「ん?」
「犬の絵」
「ああ、うん…でも、いいの」
「そうなん?」
「見えたから…多分すぐ終わる」
「良かったじゃん」
「ふふ、うん」
1年に及ぶ大河ドラマが
やっと撮了した彼は
無精者を隠していた髭を
剃らないといけないって
ちょっと残念そうだったけど
かなりホッとしていた。
肩の荷が下りたんだろうな。
次の仕事が入ってるみたいだけど。
「俺も自宅に戻るよ」
「うん」
彼は強くて忍耐力があって
すべて飲み込んでしまって
誰も知らないけど
とても繊細で傷だらけで
欲しいものを欲しいと言えなくて
だから神様に後回しにされてる。
「大谷」
「ん?」
「…菅原の元に戻るのか?」
手慣れた動作でシュラフを広げて
彼は作業の傍らで話し掛ける。
「…うん…戻る、ひろの所に」
彼は、そうか…と笑って
オレの頭をくしゃりと混ぜた。
「俺、お前が好きだったよ」
「…オレも准が好きだった」
昔、
ホントに昔、
まだ未来を何も決めてなかった頃。
それは恋愛ではなくて
だけど、濃い感情。
「またおいでよ」
「いいのか?」
「友だちじゃん」
「…っ、大谷」
恋が終わっても
終わらないんだって
彼が伸ばした腕の中に
抱き締められながら思った。
淡い感情と、縁は続く。
いつかの未来に
君を彼と重ねるのかな?
それでも良いんじゃない?
「…ちゃんと幸せだから」
「…そっか」
「准は?」
「うん…」
俺も幸せかもね。
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