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だが、彼にはこの聖行をやりきる決意があった。
それは彼自身が下らない理由だと思っている。ただ単純に、女性に泣かれたからだ。一人の村娘が涙を流して、祖父を頼む、と言っただけだ。だが、何故であろうか。彼はその涙に答えなければならないと感じた。彼は引きこもった神が、生まれる時に自分に良き心の種を植えておいたなどとは全く信じていないが、彼女の涙だけは裏切ってはならないと思った。
だから彼は、このように死ぬことすらも許されないままに、十二の棺桶を引き摺って歩いているのだ。この果てない雪の鏡の上を。
この鏡は、全てを映している。
男の黒さ、棺桶の重さ、鎖の醜さ、日の暖かさ、風の冷たさ、雪の白さ、月の優しさ、星の偉大さ、兎の健気さ、熊の強さ、そして、あの涙の清らかさ。
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