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「おい、何してんだ?……ん?お前、相島か?」
この声は……伊勢?
さっきは生産棟にいたのに、もうここまで戻って来たの?
違う!さっきは騙されそうになったけど、もう騙されない。
私は、震える手で、肩に置かれた手を払い除けた。
「うぉい!何だよ!叫んでたから声を掛けただけなのによ!」
頭の上から聞こえたその声と、払い除けた時に触れた手の大きさは、さっきの「赤い人」とは違う。
もしかして……本当に伊勢なの?
「伊勢君、助けて……『赤い人』を見ちゃったから……ドアが開かないの」
少し安心したせいか、涙声になってしまった。
普通の人なら、こんな話を信じてはくれないだろう。
特に私の言う事なんて。
「なんだよ、結局見たのかよ……俺の周りはこんなのばかりか?」
そう言い、私の脇に腕を入れて、立ち上がらせてくれた伊勢。
やっぱり……驚きも、疑いもしない。
伊勢は「赤い人」について、何かを知っているに違いない。
「ありがと……伊勢君、私の言う事が嘘だって思わないの?」
「あぁ?お前、一度も振り返らねぇだろ?だったら、『赤い人』を見たんだろ?」
背中を向けたままで訊ねた私に、そう答える伊勢。
たったそれだけで、私の言う事を信じてくれるの?
「ほら、校門を出るまで、振り返るんじゃねぇぞ」
私の頭に、ポンッと手を置いて、ドアを開けてくれる。
私が開けようとしても、開かなかったのに……。
何か不気味なものを感じながらも、私はそこから外に出た。
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