前日

4/15
前へ
/539ページ
次へ
伊勢の口から「赤い人」なんて言葉が出てくるなんて、思いもよらなかった。 怪談話は嫌いじゃない。 むしろ、テレビの特番で、ホラー特集なんかがあると、録画までする程好きだ。 だけど、「赤い人」なんて、誰かが面白半分で広めた噂だと思う。 大方、先生達が、用事もないのにいつまでも残るなって意味を込めて、作った怪談じゃないの? そんな事を考えながら教室を出て、階段の方に向かって歩いていた時、私の目にそれは映った。 生産棟の一番奥の廊下……そこを横切る大柄な生徒。 あれは、伊勢? まだ「明日香」って人を探してるんだ。 誰だかわからないけど、あそこまで必死に探してもらえる「明日香」って人は、幸せだな。 きっと、私なんて……いなくなっても、誰も探してくれないと思うから。 フウッと、溜め息を吐き、階段に視線を移そうとした時だった。 「えっ?」 視界の端に映った妙な人影。 伊勢が駆け抜けて行った、生産棟の一番奥の廊下に……高校には似つかわしくない、小学生くらいの少女がこちらに向かって歩いて来ていたのだ。
/539ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30645人が本棚に入れています
本棚に追加