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音もなく降り続ける雪は、この地域には珍しかった。生い茂った深緑の草も、淡黒色のアスファルトも、白銀の雪に染められていた。
田んぼが続くこの道に、もう何時間も茂田は立っていた。靴は雪に埋もれ生地に水が吸収されている。小刻みに体を震わせて、黒田という男を待っていた。
茂田は悴む手を胸に当てた。
「まがい物だ」
吐息が白く霧を作る。そのまま胸に当てた手を、ぎゅうっと握った。ぱりぱり、と音をたて、胸の辺りにシワが広がった。
数分後、遠くから人影がゆらゆらと茂田の方へ近付いてきた。
「おーい。待たせたな」
褐色系のコートを着服し、頭に雪を被った黒田が現れた。
「遅いですよ」
「すまんな。寝坊した」
「来ないかと思いましたよ」
「悪いな。なんでこの場所なんだ? 話なら他の場所でもいいだろうに」
「ここじゃなきゃ、駄目なんですよ」
黒田は胸ポケットから、くしゃくしゃになったソフトケースを取りだした。そこから煙草を一本取りだし、唇の間に挟んでオイルライターで火をつけた。煙草の先端に、仄かに赤い光が浮かびあがる。白い煙を、ふうっと吐くと言葉を紡いだ。
「で、話しってなんだ?」
茂田は獲物を狙う梟のように、目を鋭く尖らせた。
静寂が訪れ、微かな音でも耳に流れ込む状況ができた。
「俺を殺したのは、誰なんですか?」
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