―プロローグ―

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 十二月十九日。茂田は病室のベッドで新聞を広げ、内容に目を向けていた。  視線は片隅に報道されていた、通り魔事件の概要に向けられていた。ぴくぴくと眼球を動かし読み進めるなか、病室の外側から扉をノックする音が聞こえてきた。 「どうぞ」  扉が開かれ、今井と黒田が現れた。今井は黒田の背後で警察手帳を開いている。来たか、と茂田は思い、新聞をそっと閉じた。 「昨日の件で訊きたいことがあるんだが、容態の方は?」  黒田を先頭に、二人は病室に足を踏み入れた。 「痛みはありますが、一週間後には退院できるそうです」 「それはよかった。思い出すのは辛いだろうが、これ以上犠牲を増やしたくはない。犯人逮捕のため協力してほしい」 「あまりお力になれないと思いますが……」 「覚えている範囲でいいんだ。状況を詳しく知りたい」 「わかりました」  二週間の間に、通り魔に襲われた被害者が三人も出ていた。  通り魔が最初に現れたのは、十二月四日の雪が降った夜のことだった。最初の被害者は、帰宅途中の女子中学生で、顔と腕に数十ヵ所もの切り傷がつけられていた。  死因は出血多量死だった。  強姦の形跡がないことから猟奇的殺人として警察は発表した。事件現場の周辺には民家はなく、田んぼがただ一直線に続く道だった。田んぼ道に外灯はなく、足下を警戒しなければ歩けないため、人が通ることはめったになかった。そのため、目撃証言を得られずにいた。  二人目の被害者は、十二月十八日の深夜に襲われた。  右太股に二ヵ所、右肩に一ヵ所と三ヵ所にわたり刃物で刺され、気を失っていたところを通行人に発見され、病院に搬送された。  この被害者が、茂田だった。  事件現場は陸橋の上で、その日も雪は降っていた。この地域に雪が降ることは珍しく、対策をする住民が少なかったため、交通量も、外出する者も少なかった。そのため、この事件の目撃証言も得られなかった。  三人目の被害者は、十二月十八日と、二人目の被害者と同日だった。  女子中学生と同じく、顔と腕に数十ヶ所もの切り傷をつけていた。  死因は出血多量死だった。  事件現場は、二人目の被害者と数百メートル離れた公園だった。辺りに民家はあったが、証言は得られなかった。
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