――死別――

2/16

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
 灰色の空が、今にも涙を流そうとしている。湿った空気のせいで、髪がうねり始めた。  私にはお母さんがいないため、帰宅後すぐに、晩御飯の支度、風呂掃除などの家事をこなさなければならない。最初は面倒だったけれど、お母さんはいつもこなしていたことを思うと、頑張れた。  日直の仕事を終え、帰宅するため靴箱へと向かう。途中で何人もの同級生と挨拶をしたが、一緒に帰ろう、とは誰も言ってはこなかった。私が一緒に帰ることを、拒むと知っているからだ。だらだらと話して帰るより、一人で帰る方が早く帰宅できる。仲のいい友達は、家庭の事情を知っているため、嫌な目で見ることはしないでくれている。  靴を履き、昇降口を出ると、野球部がグランドを走っていた。校門に続く坂道を下っていくと、野球部の掛け声は遠くなっていった。 「結城……。一緒に帰ろ」  校門を抜けたところで、背後から声を掛けられた。声から鳴海だと判断できた。それに、昇降口で鳴海が立っているのを見掛けていた。  鳴海とは、幼稚園からの幼なじみでよく遊んでいたけれど、お母さんが亡くなってからは、幼いながらも家事をこなさなければ、と思っていたため、関わることがなくなった。  いや、お母さんの葬儀で、あの姿を見せてから関わることを避けていた。 「ごめん。帰ってやることあるから」  私は顔だけを振り向かせ、鳴海に謝った。足を止めずにその場を去ろうとしたが、ガクンッと体が何かに引っ張られた。肩に衝撃が走り、顔を思わず歪めてしまった。手首を何かに掴まれている感触がある。何かに掴まれている手首に、視線を向けると、うっすらと血管が浮かんでいる白い手が、私の手首を掴んでいた。  視線をゆっくり上にあげると、目いっぱいに涙を浮かべた鳴海の姿があった。 「一緒に、帰ろ」  鳴海のこの表情は苦手だ。 「うん……」  断ることができずに頷いてしまった。  校門を抜けてから五分ほど、お互い何も会話せず歩いていた。 「雪、降るんだってよ!」  突然、沈黙を破って鳴海が言葉を発した。さきほど見せた表情は、今日の空模様みたいに曇っていたはずなのに、今では晴れている。 「本当に? ここはめったに降らないんだよ? テレビではこの時期になると『雪が降るでしょう』っていうけど、降った試しなんてないじゃん」 「だよねえ。雨で終わりそう」 「きっとそうだよ」 「小学生の頃、雪が降ったの覚えてる?」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加