――死別――

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 再び、沈黙が訪れると思ったが、過去の話しが飛び出してきた。  たしか、小学四年生の頃だ。五年も前の話しを今さらなんだろ。ふと、それが鳴海と遊んだ最後の日だということに気付いた。それと私のお母さんが死んだ日だ。  お母さんは凍った道路にタイヤを滑らせ、対向車線へと飛び出し、対向車と衝突事故を起こした。相手側の若い男性は、体に異常はなく、幸い怪我も大したことはなかったが、お母さんは死んだ。  病院に運ばれるのが遅かったため、命を落とした。 「うん。よく、覚えてる」 「あの日からだよね……私達が疎遠になったの」 「そうだね……」 「ごめんね」  少し沈黙が続いたあと、呟くように鳴海が言った。 「何が?」 「私ね、結城に何度も声を掛けようとしたんだけどね。掛ける言葉が見つからなくて、距離を置いてた。日が経つほどに声を掛けるタイミングが消えていった」 「…………」  それは私も同じだった。あの表情を見られてからは、何だか距離を置きたくて遠ざかった。 「私が傍で、結城を守ってあげたいと思ってたのにね。何してたんだろ。卒業が近くなって、焦って、それでやっと声を掛けれた。私ね、卒業したら専門学校に行こうと思ってるんだ」 「えっ? 高校は行かないの?」 「うん。夢を追いかけようと思うの」  夢、あったんだ。 「何の夢?」 「内緒! 偉人になったら教えるなり」 「なにそれ」  乾燥した唇がぱくりとひび割れた。その痛みで気付いた、私は、鳴海と笑っている。鳴海と二人で笑っている。  頭にひんやりとした水滴が落ちてきた。空を見上げると、次々と頬に水滴が当たった。  鳴海は私の手を引き、近くにあった古本屋へと入って行った。 「やっぱり雨だったかあ。しばらくここで本でも立ち読みしよ」 「晩御飯の支度あるし、走って帰るよ」 「えぇ。少しだけでいいからさ」 何一つ変わっていない。我が儘を断れない私の性格を知って、困った顔を見せる。そのやり口はずっと変わっていなかった。 「少しだけね」  私も変わらないのは同じだ。我が儘に付き合ってしまう。  
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