――死別――

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 ここの古本屋は『ミツカド』という名前で、この場所は学校内で有名だった。『ミツカド』で万引きできないやつはいない、とクラスの男子達が笑いながら話していた。  裸になった電球が、店の真ん中に一つだけある。それだけで店内を明るくさせてしまうほど狭かった。レジに人は立っていないし、監視カメラがあるわけでもない。クラスの男子の言うことが、すごく納得できた。 「おばあちゃん! おばあちゃーん」  レジの後ろ側に上へと繋がる階段があり、そこに向けて鳴海は叫んだ。すると、おばあちゃんには、まったく見えない二十代くらいの男が降りてきた。 「ばあちゃんに店番頼まれてる。明日までは帰ってこないよ」 「えー。何かいい本紹介して欲しかったのにぃ」 「伝えておくよ」 「そうだ。結城、来てきて」  鳴海はそう言って私の手を引き、小説がずらりと並ぶところに連れて行った。 「小説とか読むんだ」 「ここのおばあちゃんと仲良くなってね、おばあちゃんが小説を薦めてきて、それから読むようになったの。えーと、た行た行……あった」  並べられた小説のなかから、一冊の小説を取り出した。 「これ、いいよ」  表紙を向けて私に突き出した。『分かちあう心 田中焔』と書かれていた。 「読む暇とかないからいいよ。高校受験も近いし」 「そっか。じゃあ私が内容を話してあげる」  読みたい本があるわけでもなかったため、話しを聴くことにした。  こんなにも嬉しそうに話す鳴海を初めて見た。流暢に話す姿を見て、この小説がどれほど好きなのかが伝わってくる。そろそろ終盤というところまで話していると、雨はあがっていた。 「最後は……あっ、雨あがってる」  本を元にあったところに戻すと、出口まで一気に走りだした。私は、その後を歩いて追いかけた。 「ねぇ、最後は?」 「えっ? 気になる?」  内容は二人の少女の絆を描いた物語りだった。それが、どこか私達に似ていて、親近感が湧いた。ぐいぐいと話しに聴き入ってしまって、挙げ句の果てにはラストが気になってしまっている。 「気になる」 「明日教えてあげるよ。じゃあまた雨が降るかも知れないから帰ろうか」 「明日絶対に教えてよね!」  明日。また明日、鳴海と会話ができる。
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