1 蓮台野より

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 その後は歩を進めつつ、身の上話やら他愛もない談なぞに華を咲かせること幾何。  道もろくに舗装されておらず、繁華の光も街灯の灯りも届かない林の奥で、僕達は足を止めました。 「ふむ。確かにここなら人目も憚れるでしょうが、ちと臨場感に欠けますねぇ。そうは思いません?」  冷えた手を擦りながら、広がる景色を見渡します。  目に写るのは広大な、それでいて荒んだ盆地に乱立する墓石、棒のようなものは卒塔婆でしょうか。群生と比喩するには至りませんが、あちらこちらから彼岸花が顔を覗かせています。  しかし墓地に彼岸花とは、まるであつらえたような組み合わせだ。 「ここが」 「ええ、蓮台野」  愚問だと察しつつも、聞かずにはいられないのが人の性。そして彼女の答えはやはりというか。  蓮台野。そこは人の記憶から消えかけた墓地でした、と。 「それで、僕は一体何をすればいいんです?」 「お役御免よ、お疲れ様。あとは全て私の務め。残念ながら貴方の出る幕はないわ」 「では尚更僕は何をしていればと」 「その辺で指でもくわえて見てなさい」  そう吐き捨てるなり、彼女は一人で墓地の奥へと歩み始めました。というか僕の役目、本当にただの付き人だったようです。  普段ならこの薄情者に皮肉の一つでも言ってやるところなのですが、眠気と疲労で身体も大分堪えてきたというのが正直なところ。癪な話ですが、大人しく指をくわえて待つことにしましょう。
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