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「察しの良い貴方なら、この袋の中身も解ってるんじゃない?」
これ見よがしに赤い袋をぷらぷらと振りながら笑みを浮かべる彼女は、心なしか自信に満ちています。
唖然と言う他無いでしょう。先刻から彼女の口が、それこそまるでポテトを口に運ぶような気軽さで紡ぐのは、常軌を逸した発言ばかりなのですから。
振り回される立場からすれば、堪ったもんじゃない。
「や、そんな、まさか」
「まさかも何も。貴方の耳が飾りでなければ、既に答えは出ている筈よ」
仰る通り、漠然と理解はしているつもりです。ただ、認めてしまえば大きな矛盾が生まれます。それこそこの世の理を根本から覆すに足る、膨大な矛盾。
勿論推測の域は出ていませんし、全て彼女のデタラメという可能性も十分にあり得る話なのです。それこそ、疑い始めればキリがない。
が、どうにも火種が燻って仕方がないのです。
もし赤い袋の中身が、本当に例の館で頂いたというクッキーだとしたら。夢の中のモノが今、彼女の手元にあるとしたら。
彼女が本当に、結界を、夢と現を往来したというのなら。
ああ、そうか。考えるだけ、無駄でしたね。
「ああ、ああ。理解しましたとも、理屈なぞゴミ箱に捨てろって事をね」
「宜しい」
雲を掴むような妄言を、目の色変えて得意気に語る彼女は道化か、はたまた馬鹿か。
何れにせよ、そんな与太に付き合う僕も僕です。
俗人の思慮は未だ及ぶに叶わず、ただ起きた事を受け入れるのみ。それもまた良し。
下手な理屈をつけるより、そこに在るものをそのまま愉しめる方が、幾分利口でしょう。
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