1 蓮台野より

12/16
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「ねー、今何時ー?」 「2時55分です」  さてあれからまた幾何かの時が経ち、しかし状況は未だ変わらず。彼女は墓石を回してみたり、卒塔婆を抜き差ししてみたり、頻りに時間を確認したり。彼女なりの試行錯誤のようですが、人は彼女を墓荒らしと呼ぶことでしょう。 「ねー、今何時ー?」 「2時56分です」  まあ、必死な彼女を端から眺めるのも中々愉快ですがね。  そんな彼女を尻目に、夜露で湿った土の上に腰を下ろした時でした。まあ、薄々感付いてましたけど。  人。 「こんな夜中に墓荒らし?貴方の彼女、随分な趣味してるわね」  背後より現れたのは女性でした。それもメリーさんに瓜二つ、そうまるで鏡で映したように。 「貴方も思います?だがそいつは語弊だ。墓荒らしと言うより、宝探しのが妥当でしょうね。聞こえもいい」 「どちらにせよ、精の出ること」 「全くだ」  洒落の解せる人だな、と思ったのも束の間のこと。僕、これでも勘の鋭いモノで。  真夜中の墓地に女性が訪れるだけでも稀なのに、容姿が身内と瓜二つで、そいつが親しげに声を掛けてくる。何の因果か知りませんが、これだけ不確定要素が揃えば泥酔していても気付くのは容易でしょう。 いやまあ、ね。僕らも他人の事言えませんけども。  普通じゃないなあ、と。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!