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俺が事務所に行くと、部長が笑みを浮かべ近付いて来た。
「栗山君。
ちょっと話があるんだが?
喫煙室に行こうか」
年を経る毎にエロさに磨きがかかる、四十代後半のセクハラ魔神であり、事務所の自分の机でネイルのメンテナンスに余念の無い、井坂某にイレ上げてるのが部長である。
「ええ。
何か仕事で問題でも発生したんですか?」
俺は部長に尋ねながら喫煙室に向かうが、部長は
「まぁまぁ」
とニヤリと笑みを浮かべながら喫煙室のドアを開けて、俺を中に促し一向に要領を得ない。
喫煙室には誰の姿も無く、俺は部屋の電気のスイッチを入れて手近な椅子に腰を降ろした。
「それで話とは?」
エロ魔神に貴重な昼休みを捧げるのも馬鹿げてるので、俺は単刀直入に要点を切り出した。
部長はスーツの内側からタバコを取り出して火を点けた後、煙を吐き出しながら口を開いた。
ヤニで黄ばんだ歯に、青海苔を付けたままというおまけ付きで。
「栗山君も解ってると思うが。
リーマンショックの影響で、うちの業績が著しく落ちているのは解るよな?」
超円高に針が触れ続け。
去年の秋位から世界規模で不況が拡大して行く中、俺達の会社も例外無くその波に巻き込まれていた。「ええ。
大分、仕事の受注数が減りましたよね。
でも、そんな中でも現場の皆は工事長を筆頭にやれるだけの事をやってますよ。
バイトも派遣も社員も一丸となって」
テレビのニュースで良く話題に出る様な、働き方による社内格差みたいな物は俺達の現場には存在しなかった。
故に、皆が一丸となって事に当たるのが俺達の現場の強みでもあった。
「それは解るし。
また現場として当然だろ?
だけど、今はそんな事を話す必要は無い」
現場の頑張りを当然と吐き捨て、事務方・営業方の境界線を引きまくる筆頭格であり、工場長に「ボケナス」とあだ名されるエロ魔神は俺も嫌いだった。
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