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【その日の夕方】
一日の仕事が終了し皆帰宅の徒に着く間際であったが、やはりリストラの件の影響は大きい様子だ。
いつもはそれぞれに終業前の談笑を行っているのであるが、今皆を包むの空気は不穏な物であった。
「今日も一日お疲れ様でした」
掃除を終えた美紗はいつもと変わらぬ様子でペコリと頭を下げる。
昼休み終了後に、工場長からリストラの件を美紗も聞いてるのだが動揺した様子も無く、いつも通りに一生懸命に黙々と仕事をこなしていた。
そんな美紗を見てると、何故か俺の胸が痛んだ。
「福森さん・・・」
「はい?」
「何か。
せっかく、うちの会社に来たのにこんな事になってゴメンな・・・」
「栗山さんのせいじゃ無いですよ。
だから気にしないで下さい。
今はどこも厳しいみたいですしね」
こんな状況下でも全て受け入れて尚、真っ直ぐな美紗の瞳は、俺の中で忘れてる何かを揺らした。
恋とか愛とかじゃ無いけども・・・
静かに燃え始めた感情。
不意に沸き上がった想いは、自分でも想定外な台詞を吐かせる事となった。
「福森さん。
今日の仕事終わった後、少し時間あるかな?」
「時間は・・・ありますよ。
それはもしやデートのお誘いですか?」
赤面しながらも、微妙にからかう様な表情を浮かべつつ美紗が俺に尋ねる。
「デートじゃ無いけど。
結果的にデートになるのかな?
まぁ茶でも飲みに行かないかと」
俺は苦笑を浮かべながら美紗に答えた。
「はい。
久しぶりに喫茶店とかいいですね」
美紗が頷くと同時に終業ベルが工場内に響き渡った。
「んじゃ。
お互い着替えが済んだら、駐車場横のベンチで待ち合わせでいいかな?」
「解りました。
凄い楽しみです」
「まぁ、気楽に行こう。
んじゃ後で」
「はい。
お疲れ様でした」
互いに挨拶を交わした後にロッカールームへと向かった。
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