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「もし・・・もし・・・」
受話器越しの遥の声は鼻声であり、恐らく泣いていたのだろうと思わせる。
「お疲れ。
メール見てさ・・・それで電話した」
「・・・ありがとう。
心配かけたみたいでゴメンね」
「まぁね。
でも・・・解ってる事とは言え。
辛いな」
俺は携帯を持ったままタバコに火を点けた。
「あんな男なんか・・・
すぐに忘れてやるもん」
そう遥は軽く叫ぶと、受話器の向こうで泣き出した。
俺はタバコの煙をゆっくりと吸い込み、暫く遥の嗚咽を聞いていた。
「・・・・・・・・ゴメン」
ひとしきり泣き終えた遥は、ぼそりと呟いた。
「ああ。
少しは楽になったか?」
「うん。
てか・・・頼みがあるんだけど」
ほんの僅かに声に元気が出た、遥の頼みを断る事は出来やしない。
長年の友達だから・・・
「頼みって何だぁ?
今から飲みとかは、明日の仕事に響くぜ?」
受話器の向こうで、ふっと笑った様な声が聞こえた。
「飲みじゃ無いし。
ちょっとだけ気分転換にドライブしたくなってさ・・・
雪降って来たから、一人じゃ怖いし」
相変わらず鼻声だが、ちょっとずついつもの遥に戻って来た様に思えた。
「オーケー。
つか、ドライブ連れて行ってやっから缶コーヒー位は奢れよ?」
「・・・智哉。
缶コーヒー奢れとか、みみっちいし。
女の子には優しくしないと駄目駄目男になるよ?」
「ハハハ。
もう既に駄目駄目だがな。
今から出るからよ、遥ん家に着いたら連絡する」
「うん。ありがとう。
じゃ、よろしくね」
「はいよ」
俺は少しだけ安心した気持ちで携帯を閉じて、さっと服を着替え終えると、部屋のエアコンや電気を消して玄関へ向かう。
靴を履き部屋のドアを開けると、更に雪の勢いは増していた。
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