かたはね

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私の部屋に、不思議な絵が飾ってある。 青い蝶の片翅の絵画。 誕生日プレゼントか、引っ越し祝い……絵というのは、贈り物としてインパクトのある部類だと思うのだが。どういう経緯でその絵を貰ったのか、はっきりと覚えてはいない。 五十センチ四方の額縁に、体の中心からぶつりと切り取ったような半分だけの青い蝶が、今にも飛び出さんばかりの躍動感で描かれている。かたはねの蝶。 油絵ではなく水彩画でもなく。写実的だが、もちろん写真ではないし。芸術の才能も知識も、鑑賞眼も皆無に等しい私には、絵の良し悪しも含めて詳しいことはわからない。 蝶の絵は私の部屋にきて壁に飾られ、何枚かの風景写真に混じり。殺風景な部屋を彩るのを役目としてそこにあり続けた。特別に気に入っていたわけでも、気にかけていたわけでもなかったが。 最近、その蝶がうるさい。夜毎に羽ばたく音がする。 何を世迷言を、と私も『絵の蝶がうるさい』と人に聞かされたなら思うだろう。 ベッドに横たわり、目を閉じる。 パタパタパタ。羽音がする。 起き上がり、明かりをつけて辺りを確かめる。私は一人暮らし、ペットを飼っていない。窓も閉まっているから、生き物が外から侵入した音でもなさそうだ。しばらく息を潜めて耳を澄ます。特に何も聞こえない。 気のせいか、と明かりを消しベッドに体を向ける。 パタパタパタ。バタバタバタバタバタバタ。 背後にいる! 蝶がいる!
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