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私は走っている。
今日も残業をさせられて、すっかり遅い時刻。昨日の約束……[BARノヴェレッテ]に早く行かなければ。
昨夜も騒がしかった蝶の絵を、私は壁から外そうとして額に手を掛けた。どきりとする。
蝶を構成している、青の粒子の一つ一つが浮き出し脈打っているような躍動。存在感。
片方の翅しかないから抜け出せない、もどかしいと、もがいているみたいだ。
なるべく蝶を見ないようにして絵を外すと、私は入れる袋を探す。ソファーの上に置いてあったひざ掛けで大雑把に絵を包み腕に抱えると、私は部屋を飛び出した。
空には白銀の月がかかっている。
白い光が降り注ぎ、桜のつぼみが今にも開きそうな位に膨らんでいるのが、目に映る。くっきりと外が明るい。夜なのに。
額縁を抱えよたよたしながらも、出来るだけ急いだ。橋の上に差し掛かる。
風が吹き、絵を包むひざ掛けが取り払われ奪われた。慌てて遠くへ飛ばされそうな布地をつかむ。
川に向かって、ぐらりと私の体が傾いだ。絵ごと川にダイブしそうになり、必死に踏ん張る。
水の流れに蝶の青が映った。
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