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コンクールで好成績も収めたことのある僕は、カクテルについて少し自信があった。
思わぬ病で体調を崩して、生まれ故郷に舞い戻り。町の小さなバーで働き始めて……自分と年のほぼ変わらない若いオーナーに、カクテルについて指図を受けるのは屈辱だった。
店で働く、バイト同然の僕たち数名に任せっきりにして。オーナ自身は週に一日ほどしか、フロアに立たない。毎晩、どこをほっつき歩いているのやら。
僕はオーナーのカクテルを飲んだことが無い。
「いらっしゃいませ」
そろそろ看板を仕舞おうかと考えていると、ずぶ濡れの中年男性客が入店。外は雨が振り出したらしい。この時期に多い、気分雨か。
僕はタオルを出して客に渡した。
「ありがとう。何か温かいヤツを貰えるかな」
「かしこまりました」
僕は湯を沸かし、コーヒーを淹れる準備を始める。
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