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再び扉が開いて
「……おい。あのお客に、何を出すつもりだ?」
店へ飛び込んできた濡れオーナーは開口一番、僕へヒソヒソ尋ねた。髪の飛沫が飛んできて、意外な冷たさにちょっと驚く。
「……温かい物を、といった注文なので。アイリッシュ・コーヒーを」
「それを止めて、ホット・バタード・ラムにしろ」
何だ、それ。納得が出来ない。熱いコーヒーにアイリッシュ・ウィスキーを入れたミックス・ドリンク。温かい飲み物、の注文なら、これで問題は無いはず。
僕が指示に従う気を見せないので、オーナーは上着を脱いでカウンターへ入って来た。でかい身体で僕を押しのけ、飲み物を作り始める。
ダーク・ラムをホルダー付きのタンブラーに注ぎ、ちょうど沸いた湯も注ぎ、角砂糖を落としバターを一さじ浮かべる。
「お待たせしました」
ホット・バタード・ラム。卵酒のように、風邪気味など身体を温めたい時に飲む物で、作り方は簡単。家庭でも気軽に飲まれている。
「ありがとう。……うん、懐かしい味だ」
男性客は同じ物をお代わりして、満足げに帰っていった。
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