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夕闇が街を染め始めていた。
夏はもう終わりかけ、体には適度な気温が続く時季だ。
夕食の匂いが漂う住宅街に着いたときには、もう闇がすぐそこまで来ていた。
2階建て4部屋。
その1階の左側の部屋が、今川の恋人だという石田麻美の部屋だ。
玄関チャイムを鳴らすと、中からドアが開けられる。
「石田麻美さんですか?」
そう聞いた大岩を見て、警戒しながら彼女は「そうですけど・・・」と答えた。
大岩が事情を話して、家の中に上がる。
3歳くらいの男の子が出迎えてくれた。
幼い顔の背の低い石田は、1児の母だった。
家の中は物が少なく、とても綺麗に片付けられいている。
窓辺のソファーに座ると、子どもがそばに寄ってきた。
大岩は子どもに興味を持つ余裕はないらしく、キッチンに立ち飲み物を用意する石田に色々と質問をしていた。
子どもが手にアンパンマンのぬいぐるみを持って、それをこちらに差し出した。
何も言わず、真面目な顔をしている。
大岩を見るが、どうやら大岩にではないらしいことがわかった。
こちらも何も言わず、ぬいぐるみを受け取ってみる。と、子どもは今にも転びそうな格好で走り、隣の部屋へ入っていった。
「旦那は、10時くらいじゃないと帰ってこないんで」
そう言いながら、石田がコーヒーを運んできた。
大岩が聞いたのだろう。
アンパンマンを持っていることに気付いて、フフっと笑ったが大岩と会話を続けている。
今川の恋人だと思っていた石田麻美は、1児の母であり夫もいた。
今川と石田は不倫カップルだったというわけだ。
「あの・・・・・瑞希が死んだって本当ですか?」
床に座った石田が聞いた。
大岩はそれが事実であること、不審な点があるため話を聞きに来たことを、手馴れた様子で伝える。
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