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一度きりの関係で終らせたくはない。
ラブホテルのベッドの上、シーツに包まったまま煙草をふかす彼女を胸に抱いて思った。
彼女は僕の胸に頭を乗せ、今は腕の中にいる。
でも、今ふかしている煙草がなくなったら、彼女はきっとこの腕をすり抜けて2度とこの腕には戻らないだろう。
どうしたらいいのだろう。
僕は彼女があげる煙を見つめた。
「ねぇ、チェザーレ?」
「ん?」
彼女が突然僕を見上げた。
小さな目の中に僕が映っている。
「チェザーレって、本名じゃないでしょ?」
僕は思わず笑っていた。
そんなの当たり前じゃないか。
僕の顔が少しでもハーフっぽいというならわかるけれど、残念なことに僕の顔は純正の日本人顔なのだ。
すると僕を見ていた彼女が身を起こし、更に僕の顔をよく見るために座りなおして僕を見上げた。
「チェザーレって何?」
煙草はちょうど半分くらいの長さになっている。
ベッドに置かれた灰皿に灰を落とし、また小さな唇にくわえた。
僕は彼女の顔をマジマジと眺めた。
特別可愛いわけじゃないし、まして特別綺麗じゃないのに僕の心は彼女に奪われている。
「今度教えてあげるよ」
彼女の唇から煙草をとって、僕は自分の口にそれをくわえた。
今度なんて、彼女と僕にあるのかわからないが言うだけタダだと思った。
彼女は「ふん」と言うと、また僕の胸に頭を乗せた。
「ケチな人ね!」
それっきり何も言わなかった。
普段吸わない煙草を、僕は灰皿の中でもみ消す。
彼女はその動きを感じて、一気にベッドから出ると服を着だした。
今度はやはりないのか。
そう思いながら彼女がメイクを直し終るまで、僕は目を離さずに眺めた。
もう外に出て行くのだろう、彼女が口紅を塗り終えるのを見てそう思ってたが、くるりとこちらに向き直った彼女は、予想とは反対に僕のほうへツカツカと近づいて来た。
「約束ね?」
そう言って彼女は僕の携帯電話を勝手に手に取り、勝手に操作して僕の上に置くとさっさと部屋を出て行ってしまった。
携帯電話を開いてみる。
何も変わったところはない。
もしやと思いアドレスを開いてみてみると、そこに“アリス”の名があった。
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