夜の診察

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【夕暮の診察】 沈丁花。 甘い香りを放つそれに、俺は呼ばれた気がして足を止める。 風が止み、一層強く香る花。迫る夕暮を背景に、そびえる城の美しさ。このまま時を留めるか、花の香りごと視界の全部を額に入れて部屋の壁に飾りたい、と思う。 古城の建つ石垣の周辺にぐるりと植えられた沈丁花をかき分け、誰かがやってくる。何気なく視線を合わせて、ぎょっとした。 首から上の無い人影が。自分のものらしき猫の頭を小脇に抱えて、近付いてくる。ひくひくと猫のひげが揺れる。 人外だ。 人と深く関わり、情を持つ獣たち。体が人で頭が獣のままのヤツには幾度も会ったが、これは初めてのパターン。首の落ちた猫頭。 「そこの者、待たれよ。お前は薬師か。体から匂いがするぞ。」 逃げようとする俺に猫頭が問う。くすし? 確か、昔の医師をそう呼んだ気がするが……。 「俺は医者ですが。怪我か病気でお困りなら、多少は力になれると思います。」 「おお、嬉しや。早急に診てもらいたい者がいる、我について参れ。」 しばらく進んで。猫頭が石垣を蹴ると、ざりざりと音を立てて緩やかに石がずれ、一角に大きな穴が現れた。 か、隠し扉!
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