11人が本棚に入れています
本棚に追加
体を丸めつつ狭く低い通路を進むと、すぐに小さな部屋に辿り着いた。蝋燭を灯す猫頭。
「薬師が参りましたぞ、若君。」
眠る小さな男の子。三歳くらいだろうか。触れてみると温かいし亡霊ではなさそうだが、猫頭が誘拐でもしてきたのか?
「栄養失調と日光不足、ですね。治るまで俺が、この子を預かりましょう。その、宜しければ。」
駄目で元々、猫頭を説得してみる。いざとなったら男の子を抱えて逃げるつもりだった。
「そうか。仲間は朽ち果て、我もこのような体になり。余命が長くない。若君を守る誓い、叶わぬのは心残りだが……お前に……託そうか。」
若君を頼む、と猫頭は床に膝をつく。
いつまでもそのまま動こうとしないので、俺は子供を抱き、外に出た。日は沈み闇の気配が色濃く迫る。
かあかあ、とカラスの声。
「先生。このような所でお会いするとは。」
頭上のカラスが口をきく。そんなカラスの知り合いは、一羽しかいない。前に、夜の診察に行った家に住むカラスか。
「……それは災難でしたな。捨て子をどこぞから手に入れて、猫のモノは今と昔の記憶が混濁したのでしょう。」
俺から一部始終を聞き、かか、と笑いを漏らしたカラスは、尚も忍び笑いを漏らしながら宵闇に舞い上がった。
「長く生き過ぎると時たま、ある事。先生、明晩で宜しいので……私の主人の診察も、お願いしますよ。」
ばさり。羽音にびくりとし、目を覚ました男の子が真ん丸の瞳で、俺をじいっと見つめる。
腹が減っているのだろうと思い、無いよりマシかとポケットにあったのど飴をしゃぶらせた。大喜びの様子の子供が不憫になり、ちょっと泣きそうになる。
城の下の隠し部屋、託された捨て子に猫頭。ついでにカラス頭に頼まれた診察。
やれやれ、軽い散策のつもりが、とんでもない目にあってしまったな。
[了]
最初のコメントを投稿しよう!