夜の診察

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【夜行列車】 「出来立てでーす、いかがですかーー。」 最近は、コンビニで揚げたてのコロッケが買える。香ばしく抗いがたい匂いに、僕は一つ買ってから帰宅することにした。 外は一番星が輝き。二番星、三番星、見ている間に闇と星の境目はくっきりと濃くなる。 腹の虫をほかほかのコロッケで慰めながら、僕は自転車をこぎ出した。 ピイイ、鋭くいななく汽笛の音。 カーブに差しかかった夜行列車が警告音を響かせ、スピードを落とす。 今なら、僕でも列車を追い越せそうだ。ペダルを踏む足に力を込める。ぐんぐん迫る黄色い灯りと車内の人影。 一斉に、人影たちが僕を見る。 緩やかな走行の夜行列車を自転車で追いかける、車窓の僕を観る。 窓に並ぶ、振り向いた乗客たちは全員。 顔が無かった。ただつるりと白かった。 僕が自転車を漕ぐ足を緩めると同時に、列車はスピードを上げて徐々に灯りと乗客の顔は遠のいていった。 夜の列車は、人以外の者も多く乗っている。乗るときには用心しなければ……僕は心に刻み込む。 腹の虫がぐうぐう鳴いて背中の皮がくっつきそうだと危機を訴える。 コロッケ一個では全然足りない。早く家に帰って、夕飯にありつこう。 [了]
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