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自分はこの家の膿だ。
それに気がついたのは、物心が付いてそう日にちが立っていない頃だった。もしかしたら子供と言うのは人の感情の機微に敏感だからすでに気がついていたのかもしれない。ただ、それが何なのか言葉に出来なかっただけの話で。
母親が彼を見るとき必ず眉間に皺が寄っている。父親は困ったように苦笑いを浮かべるだけ。
我が屋――というより、同じ空間に生活しているだけの関係。
たぶん、『家族』というような優しい空間ではない。ただ、戸籍で繋がれた――という事実があるのみの関係。
「お父さん」と「お母さん」。
彼が外で発するその言葉はただの言葉だった。ただそれは、形式的にでも周囲に親子のように見せかける魔法の呪文でしかなかった。
しかし、そんな無味乾燥した関係であっても彼は両親を恨んだことなどなかった。
なぜなら、彼の家族には血のつながりが無い。なかなかにややこしいが、まず最初に彼の血の繋がった母親は、彼と血のつながった父親を残して去った。そして、その父親が次に結婚したのが今の彼の母親だった。しかし、血のつながった父親は死去。今の母親は今の父親と結婚した。簡単に言えば、両親と彼は血の繋がりがない。
子供に対し愛情を注がないのは駄目だ、と言われるかもしれない。
だからといって、それは彼にとって文句を言う理由にはならなかった。まったく赤の他人である彼をきちんと育ててくれており家庭内での暴力などない。ただそこに、血のつながった愛情が無いというだけ。
だから、迷惑を掛けないように――なるべく彼らの意識から外れるように、自分は置物だ、と言い聞かせた。
そうして、必要最低限のこと以外は彼らとの会話は無くなった。このまま、大人になるまでこの関係は続くのだろう。そして、受け取った金(おん)を返したら、おそらく縁は切れるのだろう。葬式には参列するだろうけれど、涙はないかもしれない。
何年かたち、彼が小学生になっていた時のことだ。
この一つ屋根の下に、新しいメンバーが出来た。
彼とは異なり、両親ときちんと血の繋がった娘だ。
今の両親はそれはもう喜んだ。
二人の愛の結晶であり血の繋がりのある子供。ふと、彼と目線の合った父は、どこか哀れむような目をしていたように思う。
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