左下

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あの人はいつも、何かを見透かすような目で私を見てくる。 「君はどう思う?」 「そうですねぇ……」 だから私は、すぐ目線を左下にずらしてしまうんだ。 私が次の言葉を探している間も、あの人からの視線はずっと感じている。 私はあの人の目がこわかった。 私の全てを見透かされている気がして。 「あの、私も、そう思います。ただ、やっぱり、どうしてもこわいんです。自分はちっぽけな存在だって認めることが」 最後は勇気を出して目を合わせた。 小首を傾げて少し口角を上げて私を見つめるあの人。 続きを促しているようだ。 「傷つきたくないから、自己否定で自己防衛したり、最初から期待しないって形で自分を守ったりしてるのはわかってるんです。でも、私はずっとそうやって生きてきたから……。 わからないんです。ありのままでいいなんて言われても、わからないんです。私なんか、頑張らなきゃ愛されないのに、ありのままでいたら誰からも愛されないのにって、思っちゃうんです」 「幼いね」 あの人はそう言って、目の前のコーヒーに口をつけた。 精一杯の言葉が、たった一言で片付けられたことに呆然とする。 あの人は目だけでちらりと私を見た。 「まぁ仕方ないけどね。俺も君くらいの歳の時はそんな感じだった」 ふわり、とあの人はわらう。 「でも、いいんだよ。ありのままで」 年齢差なんて、ほとんど感じたことがないけれど、わらうとますます若く見える気がする。
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