左下

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「ここにコーヒーがあることと、そこに君がいること。同じ現実だよ」 「どういうことですか?」 じいっとこちらを覗き込んでくる。 「存在しているってこと自体には、付加価値とか、優劣とかがないってこと。……ま、それを受け入れられた時に、君がいいです、君が好きです、って人がきっと現れるよ。男女に関わらず、ね」 あの人の目がこわかった。ずっと。 私がここにいる資格のない人間だと見透かされそうで。 ……私があの人に特別な思いを抱いていることを見透かされそうで。 「そう、ですか。今すぐは難しそうですけど、頑張ってみます」 「ま、言うのは簡単だけどね。こんな偉そうにしてる俺だって、自分を認めるのは怖かったし、時間もかかった」 はは、とあの人がわらう。 わらうと目が細くなるあの人が好きだった。 ずっとずっと。出会った時から好きだった。 「そうですよね。長年の思考の習慣を変えるのは難しいです」 「まあね。ただ、君ならできると俺は思ってるよ」 あの人の言葉、あの人の笑顔に、胸が勝手に痛み出す。 「……ありがとうございます」 それだけをやっと言って、私はまた視線を左下に逸らした。 ほんとうは。 ほんとうは、あの人に見つめられるのが好きだった。 ほんとうは、あの人とこうやって議論するのが好きだった。 ほんとうは、あの目に私の気持ちを見透かしてほしかった。 あなたに認められたいの。 あなたに好きだと言われたいの。 あなたに私を選んでほしいの。 ほんとうは、ほんとうは……。
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