花見酒

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彼女が見上げた先にあるのは、白い――それこそ、雪にも見紛うように白い花を散らす桜だった。その枝は、巌の如く激しい瀧に打たれながらも、意に介さず伸び切っている。その枝の裏で、水飛沫から守られるように苔などが生えている。 それを見上げる剣士は、微かに微笑みを浮かべる。それは、哀愁のようでもあるし、自嘲のようでもあるし、幸福のようでもあるが、そのどれとも言えない。そして彼女は刀と共に下げていた酒の一升徳利を掴み、幾星霜とも知れぬ間ここにいる桜へと掲げる。その一升徳利には、銘が刻まれていた。瀧桜、と。 その銘酒を、雄々しき瀧と桜に存分に見せつけて、彼女はその場に胡坐をかいた。そして懐に手を差し入れ、朱色の杯を取り出した。そこに瀧が歓迎の意を僅かに注ぐ。
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