黄昏とも言えぬ夕べ

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その犬は、ただひたすらに天を仰いでいた。彼を置いていった者達はとうの昔に見えなくなったというのに。 今はもう、郷愁の曲を流す緩やかな川と、憤慨を辺りに当たり散らす風しか、彼のそばにいない。確実に石竃へと近づいている気温に草木もほとんどが挫けてしまった。 そんな世界に取り残された一匹の犬を、遥か遠くの月が優しく、そしてこの星に終わりを告げた明星が嘲りながら、眺めているのだ。この小さく取るに足らない存在を。全くの差別もせず、そして欠片の想いも寄せずに、眺めているのだ。
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