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「僕の名前は、知ってるかな?」
不安そうな顔をして首を少し傾げる彼に、紅蓮は小さく頷いた。“そっか、なら、良かった”と、安心したのか彼の顔は笑顔に変わる。
「多分だけど、“お前等”のこと知らない奴とか、クラスに居なくね?」
「え、そんなに有名なの? 何かした覚えもないんだけど…」
神田の言葉に、彼は不思議そうに首を傾げた。だが、神田の言葉に嘘偽りはない。彼、“暁 唖李栖”と彼女、“暁 輪廻”は有名なのだ。
「だって、双子って珍しいじゃん」
時雨が笑って言えば、“そうかな?”と唖李栖は首を傾げる。一卵性の双子なのか、とても似ているのだ。お互いが入れ替わっても、多分、誰も気付かない。
「でも、そういう有名なら良かった。悪い方だったら、どうしよう、って思っちゃった」
唖李栖は少し、輪廻の方へ視線を移す。輪廻はパーカーを着ていて、机に伏せている。休み時間、起きていることがあまりない輪廻は、授業中もほとんど寝ていた。
「アイツって、移動時間以外に起きてることあんのか?」
「お昼とかは起きてるよ」
「いや、それ逆に寝てたら困るだろ」
大東の問いに、唖李栖がすぐ答える。だが、時雨がそれに突っ込めば、唖李栖が“それもそうだね”と小さく笑った。
「と言うかさ、最近、テレビに出始めた“きら”って可愛くね?」
「えー、大東の趣味ってやっぱ、謎ー」
神田が笑いながら言うと、大東は“んなこと、ないだろー”と少し口調をきつくする。話が変わったことに、苦笑いする時雨と紅蓮だが、時雨はクラスメイトに呼ばれて、そこから離れた。
「みんな、仲が良いね」
「え? あぁ。大東と神田と時雨は中学が一緒らしいからな」
“俺は違うけど、”と紅蓮が苦笑いすれば、唖李栖は“ふーん”とたった一言だけ。
「あ、そうだ」
思い出したように呟けば、紅蓮に近付き耳元で小さく、誰にも聞こえないようにそっと話し出した。
「次は気を付けなきゃ。それとも、“得意な嘘”が言えないくらい、“瀬戸内銀花”が気になった…?」
紅蓮の中で何かが、キシッと歪んだ音を立てる。
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