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第一話。
*+*第一話*+*
桜も散り、もう6月になっていた頃。
俺、柊紅蓮はまだ、2ヶ月しか居ない教室に嫌気がさしてきていた。
***
「んで、柊はどっちが好み?」
大東は雑誌を開きながら彼に問う。柊、と呼ばれた男は眉を寄せてあからさまに、困った顔をしてみせた。暫く経っても紅蓮は迷ったまま、雑誌を見つめている。ハッキリ言うと、彼は興味がないのだ。
困惑の表情のまま、雑誌から視線を外す。すると、銀色の髪が紅蓮の視界に入った。彼女も紅蓮のことに気付いたのか、笑いかける。
「おい、柊ー、どっちなんだよー」
痺れを切らした大東は紅蓮に呼び掛けた。それに反応した紅蓮は、んー、とか、あー、とか、曖昧な言葉しか出さない。
すると、紅蓮の横にふいに、誰かがやってきた。ふわり、と独特な匂いが紅蓮の嗅覚を擽る。
「えっ?」
そして、長袖で隠れた白い右手が伸びてきて、右側の女の子を指差す。紅蓮が振り向く前に、先にその人物が口を開いた。
「僕は、こっちの子の方が好きかな」
ふわりと笑って大東達に言えば、一瞬は驚いたものの、直ぐに大東達は彼に話しかける。呆然として驚いたままの紅蓮に、彼はニッコリと笑ってみせた。
「いきなり、話に入っちゃってごめんね? 楽しそうだったから、つい、さ」
笑顔を絶やさずに言う唖李栖に、大東達も笑う。だが、紅蓮は驚いたままだった。瞬時に理解したのだ。“助けてくれた”と。
「僕の名前は、知ってるかな?」
ふわり、と女の子のような笑みで彼は笑う。
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