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「襲わないから もっとくっつく?」 ケイは楽しそうに微笑んで 私の表情を伺っている。 「……………ぅ」 「そんなワンコみたいな顔して」 そう言ってふふっと吹き出してケイは手を伸ばして私を引き寄せた。 シーツを滑る衣擦れの音が耳に響く。 ケイのシャンプーの香りが ふわっと香った。 「あったかい」 大きく吸い込めばケイの香りに包まれて心がほどけて広がっていくみたいに軽くなる。 黙っていると心臓の音が漏れちゃいそうで 話題を探して投げ掛けた。 「そう言えば ケイって自分の事呼ばないよね 時々『自分』ていうだけで」 「あぁ、何かね しっくり来なくて 俺とか僕とか私とか」 鎖骨が目の前にありちょっと目線を上げたら動く喉仏に目が止まる。 「そうなんだ」 「何者なんだろうと悩んだ時期もあった」 私の頭に顎をのせるからケイの鎖骨辺りが近付きすぎて焦点が合わない。 「私は何者であっても ケイが好きだよ」 顔を見ていないから 表情が見えないから 素直な言葉が 口から出てくる。 「ありがとう」 ぽんぽんと頭を撫でられた。 「温かくて………眠くなるね」 欠伸を含んだケイの声が段々薄くなってきた。 「あ、12時 おめでとうあやめ」 「あ、ありがとう」 ケイの顔を見ようと 顔をあげようとしたけど 次第にすぅと静かな寝息が聞こえてきたので 私はケイに擦り寄って目を閉じた。
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