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「諦められたの?」 朝日さんの問いに私は曖昧に微笑んだ。 「偉いねあやめちゃんは」 寂しそうに目を伏せれば 長い睫毛が朝日さんの表情を曇らせた。 「朝日さんは どうされたんですか?」 きっと 彼の思い人は さっきのあの人。 「俺は 通じ合えない想いを心の中で育てていけるほど 純粋じゃないんでね」 何故かその時 朝日さんを 溺れている海から 救ってあげたいと思った。 ケイがいつも私を上昇させてくれるように。 「これからも 続けていくんですか?」 朝日さんの話を聞いていたらまるで自分の事の様に胸が痛んで、きしきしと音を立てた。 「分かってるよ 本当は もう止めなくちゃいけないって でも踏ん切りを着けようとすると、引き戻される」 「………………」 「駄目だね 相手のせいにして 自分が臆病なだけなのに」 「…………」 朝日さんがテーブルの上に置いていた手をピクリと動かした。 「あやめちゃん 笑ってよ 抱き締めたくなるから」
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