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そう言って 朝日さんはやっと笑った。 溢れないように耐えていた涙がぽろっと落ちた。 「あやめちゃんが泣かないでよ」 優しい声で私を宥める。 「朝日さんが 泣かないから」 私は流れた滴を手の甲で拭った。 「有り難う」 長い手を伸ばしてぽんと私の頭に手を置く。 温かい手だった。 充分朝日さんは純粋だと思うよ。 ただ、もし私が口出し出来るなら あの人に言いたい。 好きなら 朝日さんが大切なら どうか手放してください。と 「あやめちゃん 有り難うね」 「寄らないんですか?」 マンションまで一緒に来て朝日さんは私を見送ろうとしてた。 「いい ケイ怖いもん」 小さく首を振る。 「朝日さん ケイ盗っちゃってごめんね」 私がからかい混じりで言うと はっと笑ってしっしっと手で私を追い払う。 「お詫びに何時でも来ていいよ」 私が手を振ると 「今の言葉 後悔しないでね?」 朝日さんは手を軽く上げて駅の方へ帰っていった。
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