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朝日に珍しく呼び出されたケイは馴染みのバーヘ向かっていた。 ボルドー色の艶の有る扉を開けると耳障りの良いジャズの音が聞こえてくる。 既にカウンターで飲んでいた朝日は手を上げて合図してきた。 コの字型のカウンターだけのこの小さなバーは以前二人で良く来ていた。 人の良さそうなマスターのこの店にはモルトウイスキーを求めて足繁く通う男の隠れ家的な場所だ。 「お久しぶりです」 にこやかにマスターに挨拶され、ケイは笑顔を返した。 マスターの定位置から朝日が離れて座っている時は余り聞かれたくない話をするときが多い事をケイは知っていた。 「ストレートで」 朝日の横に腰掛けると マスターにお願いをした。 「飲んでるの?」 朝日の前には薄い琥珀色の飲み物が置かれていた。 「少し」 それに相槌を打ち 朝日は目線を伏せたまま ナッツの入った器をケイが座った方へずらした。 暫くしてからマスターが一礼してスニフターグラスとチェイサーを置いた。 深く熟した琥珀色の液体がゆらりと光る。 「気付いてるだろ?」 隣から低い声が響く。
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