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「理事長さん。悠灯は僕がおぶって行きますので寝かせといてください。片手で地図も見れますし」
「あ、ああ、大丈夫かい? じゃあ……よろしく頼むよ。あ、寮は校舎を出て左に向かえば十数分で着くからね。今の時間帯なら寮長と寮官の二人もいると思うから」
「分かりました。失礼します」
僕は理事長に手伝ってもらって悠灯を背負い、理事長室を後にした。
耳元で聞こえてくる悠灯の寝息を聞いていると、僕はなんだかやんちゃな弟をおんぶしてるような兄の気分になってきて、少し擽ったい思いを味わいながら寮へと向かった。
*
……約数十分前に、僕はあの時、彼の声で聞いたのだ。理事長さんが、十数分で着くと云う言葉を。
なのに、先程校舎を出た時に確認した時刻は十一時半だったのが、寮にある時計を見ると、十二時になっていた。
あの理事長! 何が十数分で着くだよ! 倍以上の時間も掛かっちゃったじゃないか! お昼時でお腹も空いてるのに……。
何か僕……この学園に来てから怒りっぽくなってるな……あの理事長のせいだそうだ絶対そうだ。
僕はそう思い込み、全てを理事長のせいにすると、悠灯を抱え直して寮へ入った。
内装も外装に伴い、やはり中は庶民の僕から見たらホテル? と勘違いしそうな程の構造で、僕は受付らしき所を探す。
すると必需性の全く感じない噴水の向こう側に目的地らしき所を発見。歩き疲れた足に鞭打って其所へ行く。
明日筋肉痛だろうな……と考えていると、どうやら悠灯が起きたらしく、肩に乗っていた頭が浮いて軽くなった。
「ん……紡義?」
「起きた? 悠灯、理事長室で何度起こしても起きなかったからさ。もう寮に着いたよ」
「え? 紡義が俺を……?」
悠灯は(多分)目を大きく見開き、驚いた様な顔をする。
何だよ……僕みたいなもやしが天下の総長悠灯様をおぶって来れた事に驚いてんのかな……?
僕にだって体力はあるし、おぶる事くらい出来たのに……。
「なんかごめんな。重かったろ?」
すると悠灯は申し訳なさそうに視線を下に向けて、僕の背中から降りた。
あ……驚いたわけじゃなくて、申し訳無い気持ちでいっぱいだったんだ……やっぱり悠灯は好きだな。百姉に聞いてた王道転校生とは違って。
「そんな事ないよ? 無駄な脂肪も無いし、僕の理想的な身体だもん。羨ましい」
「そ、そうか。ヘヘッ……誉めてくれたのと、此処までおぶってくれた事、ありがとな」
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