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それは、何の前触れも予告も嵐の前の静けさも無く、僕の身に降りかかって来た。
「紡義くん。君は今日から荻原学園へ行きなさい」
「は?」
おはようございます。僕の名前は朝霧紡義。先月やっと高校生になったばかりの十五歳だ。
そして、学ランの最後の釦を今まさに止めようとしていた僕の部屋にノックも無しに入って来たのは朝霧百瀬。僕の姉だ。呼称は百姉。
腰まである黒髪に綺麗な人間離れした蒼色の眼。雪みたいに白く、滲み一つない肌に整った容姿とスタイル。誰が見ても美人な百姉。
しかしそんな万人受けしそうな容姿を裏切る腐った性格に何故か僕限定のブラコンは、今まで百姉に惚れてきた男(女も)達に予想以上の大打撃を与える程のモノで。
結果、彼女には残念美人の称号が付いたという過去だ。
「百姉。今は四月の末だよ? いくら英国との時差があるからって流石にボケ過ぎだよ」
「私はボケてる訳じゃないわよ、紡義くん。大真面目に言ってるの。さっ、行きましょっ!」
「わっ、ちょっと百姉! だから僕学校だって!」
百姉は僕の左手首を掴むなり、無理矢理連れて行こうとする。
しかし僕は百姉の手から脱出し、階段まで歩かされていた足を止めて百姉に向き合って言ってやると、予想外の言葉が僕をブッた斬った。
「榊高校? 彼処、退学したから。荻原学園に行く為に」
「はぁ! 何でそんな勝手な事したの! 大体僕、其処の試験受けてないよ!」
「受けたわよ。ほら、一昨日やった実力テストってあったでしょ? アレ、荻原学園の編入試験♪」
「あぁ、アレなんだ。て僕受かったの?」
「うん。ほら、これが証拠の合格通知よ」
はい、と語尾に軽快な音符が付きそうなくらいの口調で渡された紙には、確かに僕が荻原学園の編入試験に受かった証拠が。
え? じゃあ僕、荻原学園に行くしかないの? 嫌嫌嫌嫌! 大体何で僕が行かなきゃいけないの!
「何で僕が行かなきゃいけないのさ」
「私の(萌えの)為よ!」
「即答! いくら百姉のお願いでもこんな無理強いは聞けないよ!」
僕は久しぶりに声を荒らげて百姉に反抗する。
今まで結構無茶ぶりなお願い聞いてきたけど、それだけは嫌だった。
すると百姉は斜めに俯いて肩を震わせる。
そんな百姉の様子を見た僕は急いで百姉の側に行き、百姉を宥める。
「も、百姉………?」
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