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「そうよね……嫌よね……紡義くん人見知りだし、勝手に決めちゃってごめんね? お姉ちゃん、罪滅ぼしに理事長さんに謝ってくるわ」
「じゃあ……行かなくていい?」
「えぇ、頼んでくるわ。でも、もしかしたらお姉ちゃんは帰って来れないかもしれない。大事な資料送っちゃったし、お金も……それに、もしかしたら其処で働かされるかもしれないわ」
「えっ、でも……!」
「いいのよ。紡義くんは何も悪くない……悪いのはお姉ちゃんよ。大丈夫、お姉ちゃん、そこら辺の男より強いもの。それに紡義くんの為だと思うとお姉ちゃん、乗り越えられるわよ。じゃあお姉ちゃん、男装する為の道具買って来るから、紡義くんは……」
「~~~~ああもう! 分かったよ! 百姉の代わりに僕が行く」
「紡義くん……」
「そんな危ない所に百姉単身で行かせられる訳ないじゃないか! 百姉、男は皆狼なんだよ? しかも百姉は学校あるし」
「紡義くん大好き! 愛してる!」
百姉はそう言うなり、勢いよく僕の首に両腕を回して抱き付いてきた。僕は吃驚してその場に尻餅を着いてしまい、お尻を階段の端にぶつけてしまった。
痛たた……はあ、僕って、とことん百姉に弱いのかなぁ……?
しかめっ面で未だに抱き付きながら頬っぺたをスリスリしてくる百姉に視線を向けると、なぜか溜め息が…………。
仕方ないなぁ。
僕は半ば諦めモードに入り、一旦部屋に戻って細かい荷物を整理すると、百姉が予め呼んでくれていたタクシーに乗り込み、荻原学園へ向かった。
タクシーに乗っている間、それはもう嫌という程王道BLとは何かについて語られ、僕の脳内は爆発寸前だった。いや爆発したな。
その上聞かなかったせいもあるのだが、荻原学園は全寮制の男子校らしい。
ちょっ、百姉……そんな重大な事は最初に教えてよお……。
幸行き不安しかない僕は、最後に目一杯百姉に甘えながら学園へ到着するまでの時間を過ごしたのだった。
*
所変わって荻原学園正門前。
僕と百姉を乗せたタクシーはいつの間にか閉鎖的な空間に位置する山奥へ到着していて、僕と荷物を下ろして街の方へ続く山道を下って行った。
僕はタクシーの姿が見えなくなるまで手を振り、後ろの正門に視線を向け、構える。
豪華絢爛と云う四字熟語が大変お似合いな正門を通して見えた、十九世紀末にありそうな英国のパブリックスクールのような建物が、おそらく校舎なのだろう。
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