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涙目で噛んだ舌先を口内から出して冷やしていると、トイレの入り口が開いた。
「あれ、紡義と那珂屋じゃん。お前らどういう状況?」
入って来たのは、現寮長で何故か珍しく眼鏡を掛けている和樹先輩だった。
和樹先輩はスタスタと僕の目の前まで来ると、僕の頭を一頻り撫でくり返し、那珂屋先輩に再び尋ねた。
「で、何でこうなったんだ?」
「えぇっと~、俺と平凡君がぁ、偶然同時にトイレから出てきてぇ、逃げようとぉ、したんだよねぇ。でぇ、俺はぁ、捕まえました~☆」
「捕まったんだな、紡義」
「はい……」
僕は舌を出したまま、頭だけ項垂れると、項垂れる僕の頭を上げるように顎を掴んで上に上げた。
頭が上がる際に舌の傷口が歯にあたり、微妙に傷口を抉った。
そして、僕の視界が床のタイルから和樹先輩の珍しい眼鏡を掛けたイケメンフェイスへと移り変わり、痛みで再び目尻に涙が溜まり、声を上げてしまった。
「いひゃっ……!!かふきせんはい……!!いひゃいれす……!!(痛たっ……!!和樹先輩……!!痛いです……!!)」
「こらこら、舌引っ込めようとすんな。あー、あとな……こいつの前ではあんま、隙を見せるなよ」
「もう十分隙だらけだけどねぇ♪ていうかぁ、さっきの君の声、ちょーエロかったねぇ……俺とどう?今晩」
「へぁっ……!!」
「ごぉら。俺の目の前で誘ってんじゃねぇよ。紡義。お前もだ」
僕、別に誘ってないのに……そんなに変な声だったかな……?てか、授業……
僕は身体を那珂屋先輩に抱き上げられ、顎を和樹先輩の指で固定され、更には普段、指で触れられもしない舌を捕まれている、どうすればこんな状態になるんだってくらいの状況にある。
男としても、ずっと同性に持ち上げられているのも恥ずかしいから、試しに那珂屋先輩に下ろしてもらえないか尋ねてみると、意外とあっさり下ろしてくれた。
不気味な素直さだなぁ……会って数分も経ってないけどさ……
「なぁ紡義。二択、選ばせてやる」
僕の舌の様子をいつまでも見ていた和樹先輩は、僕の舌を掴んだまま、ある提案をしてきた。
その提案をした時の顔は、まるで、何か僕に対してはどちらに転がってもあまり良い結果には返ってきそうにもない事を企んでいる様な、そんな顔で、僕は逃げる事も出来ない。
僕は取り敢えず、その二択の内容を聞いてみた。
「ほの……ひはふっへはんへふは?(その……二択って何ですか?)」
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