ハル

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空に浮かぶ雲が冬の厳しさから逃れ、春の日差しを受けて喜んでいるようだ。 人々が住む街から遠く離れた広大な森を越えて、さらに幾多に聳える深い山を越える。 決して人が踏みいることのないその山々の真ん中。 そこに老人と青年が住んでいた。 空に手が届きそうな山の頂上の崖っぷちに僅かに広がる場所で二人は向かいあっていた。 「ハルよ、今日この時をもってお主を成人とし、光陰流を名乗ることを許す。 俗世に降り、尚一層の精進に励むがよい……」 白くなった総髪を後ろで束ねた鋭い相貌の老人は青年に、いや18歳となり俗世では大人となるハルに表情を緩め感慨深けにそう告げた。 「は?いきなり何言ってんの?ついにボケたか……」 二人が日課の剣の修行を終え、刀を納め一礼をした後に厳しさと喜びを隠すようにハルに告げたのだったが、まさかのハルの発言に――― 「いやいや、前に言うとったじゃろ!?最後の修行を終えたら元服して俗世に降りろと!忘れとったんか!?」 厳かな雰囲気も台無し。すっかり二人が過ごしたいつもの砕けた雰囲気に。 「っ!?……や、やだなぁ、忘れる訳ナイジャナイデスカ……」 あらぬ方を向いて頬をかく仕草がなんとも子憎たらしい。 .
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